『バイバイ、ヴァンプ!』を観て・・・同性愛差別を映画的に考察~「笑い」という表現ははどこまで許されるのか?~上映中止を求めるのはやり過ぎ?

LGBT

観ていない映画の批判はできるか?

ここ数日、SNSがこの映画のことで持ち切りだ。

主な流れは・・・

①「ヴァンパイアに噛まれると同性愛者になる」という設定の他、同性愛を差別する内容がオンパレードである…といった非難に始まり

②上映中止・停止を求める署名活動がスタート

③SNSで予告動画や説明文、観た人のコメントを見て、映画や制作陣への非難が増加

それに対し
④「予告編しか見ていないのに非難をするな」派の登場

⑤上映中止・停止を求めるのは「表現の自由の侵害」「気に入らないから排除するのはおかしい」という意見や

⑥一部のLGBT当事者ややアライ(支援者)の人が、何かにつけて文句を言うことで、他のLGBTの人が生きずらくなっている・・・

等々・・・否定派、擁護派、否定の否定派等入り乱れる中

AbamaPrimeに出演したプロデュサーの発言が、火に油を注いだ形になり波紋を呼んでいる。

プロデューサーの「賛否あって良い」という発言に限ってはその通りだと思ったので早速映画館に足を運んだ
「炎上商法だから~」とか「興行に支えることになるから、無視するのが一番の抗議」との声もあったが

一応これでも、大学での専攻は「日本映画」だったので、まずはこの目で・・・

やはり確かに④「予告編しか見てない」のに非難をするのはどうかと、
と思ったのだが・・・
観終わった感想としては、予告編で表現されていた差別的な表現は。本編でもそのまんまだったし、それに対して何かフォローが入るのかと思えば特に何もなく、ラストに制作陣が入れたつもりかもしれないフォローも見事に的外れなものだった。

結果から言ってしまえば、「予告編」は「本編」の内容を良くも悪くも”嘘偽りなく”表現していた正真正銘の「予告編」であり本編を見ても裏切られることのない「ダイジェスト版」であった。

具体的にどんな表現があったかは、様々なSNSで書かれているので省くとし、
実際何が問題だったかを「映画的」に考察してみた。

問題点を「映画的」に考察すると・・・

まず、最初に感じたのは俳優陣の演技が「舞台的」に感じたということ。
巧い下手は別として、セリフ回しや緩急、動き、そして展開のペースがまるで舞台の様だった。
それについて、どうこういうつもりはないし、意図的にそう撮る映画もある(この作品がどうかは別として)。
出演していた若手俳優も今はやりの2.5次元舞台に出ているというからそれもあってのことだろう。

次に感じた違和感は、演出がどうも古臭いというか”オヤジ臭い”。
中高生がターゲットのはずなのに、女性教師の胸のアピールや、パンティの見せ方が、中高年向けというか、なんだか手法もひと昔どころかふた昔前のものに見える。(制作人が過去に関わった作品を見れば納得)
LGBTや同性愛に関する考え方や、取り扱い方もその時代のままなのだろうか・・・。

 

さて、ここからが本題…

「コメディ」とは何か?

映画の公式サイトを見ると

青春×ホラー×コメディ

とある(正しくはコメディの左肩に、小さく「ちょっぴり」とある)

1つ目の「青春」は学校を舞台にした高校生の恋愛とドタバタ劇なので分かる。
(主人公の男子高校生が、思いを寄せる女の子になかなか思いを伝えられないでいるシーンから始まる。)

2つ目の「ホラー」は、ヴァンパイアが人々襲うから、まあそうなんだろう

では、3つ目の「コメディー」は?

制作人はいったいどこで笑ってほしかったのだろう?

・昨日まで、男だった友達がいきなり女装して登校してきたところ?
・ヴァンパイアに噛まれた同級生が、所かまわず、男同士・女同士でいちゃつきだすところ?
・同性愛者の先生に銭湯で”濃厚”に体を洗われるところ?

同性愛を除いたら、笑いのポイントがなくなるなら、それは同性愛を”笑いの道具”としてか見ていないということではないか?

(唯一ちゃんとコメディらしさを感じたのは、元々同性愛の先生がヴァンパイアから生徒を守ろうとするも、噛まれたいという欲望が出てしまうシーン
流石、ゴリさん)

同性愛をテーマにしたコメディは作品はダメか?

そんなことは無い。
同性愛をテーマにしたコメディ作品でも良いものはあるし、当事者も面白おかしく見れる作品も多くある。

例えば、大ヒットした「おっさんずラブ」では
・吉田鋼太郎さんの顔に似合わず乙女な恋愛観であったり、
・恋心を抱く田中圭さん相手に、「結局自分は男だから」と身を引くも。恋のライバルも男と知ると、「自分にもまだチャンスがある」と再燃、奮起したり
・夫の浮気相手は(本当は片思い)女性だと思い込み、その調査を等の相手に依頼したり・・・
と、ストーリーや転換、勘違いや人間描写で「笑い」を生み出している。

それに対し「バイバイ、ヴァンプ!」での描き方は短絡的で
・同級生がいきなり女装
・同性愛者に襲われた
・ところかまわずいちゃつきだす

という「現象」だけで笑いを取ろうとしている。

「同性愛」は子どもを笑わす変顔のお面ではないのだ!!

加えて言えば、同じく引き算で考えると
「同性愛」を取り除いたら「コメディ」ばかりか「ホラー」の要素も無くなってしまって・・・
(ただ単に人を噛む美男美女の変質者だし・・・)
本来、ホラー映画は「異質な集団や文化の中に迷い込む」もしくは「日常に紛れ込んでくる」様式から始まり(その初期はまさにドラキュラや吸血鬼などが扱われた)現在もその形式で多くのホラー映画が撮られている。
前者は閉鎖された村や文化であったり、人間に化けたモンスターや異教徒、
後者も同様にモンスターか、病気の類であったりする。

本作のヴァンパイアが”積極的に”殺人や暴行、誘拐行為を行わないところを見ると
「ホラー」=「同性愛者」として描かれているし
「ヴァンパイア自体がほらーなんだ」と言われたとしても
ヴァンパイアの持つ怖さが、「同性愛を広めること」として見れば
同性愛者や同性愛を、モンスターや病気として描いていると言われても仕方ないのである。

上映中止・停止を求めるのはイキ過ぎ?この映画の最大の問題点とは…

先に問題点から言えば、上に書いたようなことの
「自覚」と「認識」が無いということである。
そして「想像力」の欠如だ。

もしかしたら、本当に差別をしている意識もなく、
制作者の一部は同性愛について「寛容である」「理解がある」と本気で思っているかもしれない。

同性愛に「寛容である」「理解がある」と言う作り手たち

先述のプロデューサーも
「こういう業界だから周りにも(同性愛者が)いる」「周りの同性愛者の方にも意見を聞いた」と言っている(恐らく、それ以上のリサーチも考察もしてないのでは?)
しかし、業界(エンタメや芸能界ということだろう)にいるLGBTの人や、公言・カミングアウトをしている人は、ある程度強い(これ自体も偏見と言われる時代!)人であり、業界人ならいじられることもやむなし、それでキャラクターを確立している人が多い場合がある。
そういう人たちしか触れ合わなかったり、近場だけでの聞き取りでは、ましてやこういう立場の人間からなら、真向に批判はできないだろう。

そして後は、同性愛者はテレビの中か二丁目にしかいないと思ってはいないか?

要するに、彼らの言う「寛容」や「理解」というのは
「最近テレビでよく見るね、非難もしないし個人の自由だと思う」なのである。
一般人ならそれでよいのだが、業界に居て、ましてや同性愛を取り扱った作品を作ろうとするのにそれではいけない。

対岸の火事で「自分には関係のない」と眺めていただけなら、まだよかったのに
「ドラキュラが同性愛をばらまいたら面白いんじゃない?」とのアイディア(という名の思い付き)だけで、作り進めてしまった。

せめて、キャスティングにモデルやアイドル、2.5次元俳優と
中高生をターゲットにした時点で気づいてほしかった

友達の仲良しグループで見に行くかもしれない、翌日の教室で話題になるかもしれない

ふざけあっていちゃつく真似を再現する人もいるかもしれない

その中に”僕”がいたら?

上映中止を求める運動を始めたのは現役の高校生だという。
賛同する人達の中に、昔その”僕”だった人も少なくない。

SNSでとある映画監督が
「仮に、上映停止に追い込んだら、賛同した人は気分が良いが…」
「賛同してない性的マイノリティも皆『気に入らない映画を排除する人々』とレッテルを貼られ、更に生きずらい社会になりかねない」
と、批判していたけど

何も「気に入らないから」でも、ましてや「良い気分になる為」声をあげているのではない。

 

あの時の”僕”と同じ思いをさせちゃいけない!

”僕”の周りに間違ったメッセージを植え付けてはいけない!!

その思いからではないか?

休み時間に
「お前、ホモ(もしくはオカマ)っぽいな」
といわれ「やめろよ、気持ち悪い、そんなわけないだろ」
と自分に嘘をついて、愛想笑いをした・・・

なんて体験談、SNSを開けばいくらでも目に入ってくる
特に、数年前の「保毛尾田保毛男騒動」でその手の思い出話が溢れかえっていた。
※保毛尾田騒動~についてはまた少し違う見解もあるので、また違う機会に書きたいと思う。

モノづくりをする人間が、それを知らなかったでは済まされない。

作り手ならそんな子どもたちや、元子どもたちがいたこと、
今まさに、そんなシーンに直面(助長)しているかもしれないということを想像してほしい。

【プロフィール】これからは武田
これからは武田

1986年東京都生まれ 
ライター/構成作家/LGBT+アドバイザー

LGBT+の「G」

お笑いライブ、トークライブ、イベント等の構成、裏方を務めつつ
2019年秋よりLGBT関連の執筆、セミナー、講演会等を始める

女装しない、オネェじゃないただのゲイ『タダゲイ』

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